上顎のインプラントが難しいといわれる理由は?上顎洞炎についても解説

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上顎のインプラントは難しいのかどうか、気になる方はいませんか?
上顎のインプラント治療が難しいという話を聞くと不安に感じる方も多いでしょう。

「治療自体不可能なのか」
「治療の内容が難しく、リスクも大きいのか」

知識がない状態だと不安な気持ちばかり先行します。
そこでこの記事では上顎のインプラントが難しいといわれる理由について解説します。
また、上顎のインプラント治療をする場合の手術法についてもいくつか解説しますので、これから治療を検討している方はぜひ参考にしてください。

上顎のインプラントは難しい?

結論、上顎のインプラントは難しいといわれています。
治療自体は不可能ではありません。しかし、下顎のインプラントに比べると上顎のインプラントは難易度が高いのが現状です。
そのため、上顎のインプラント治療ができる歯科医院も限られています。お口の中の状態によっても治療できないと判断される可能性もあり、注意しなければなりません。

上顎のインプラントは難しいといわれる3つの理由

上顎のインプラントが難しいといわれるのには、以下3つの上顎状態が関係しています。

  • 下顎と比較して骨密度や骨量が少ない
  • 骨が柔らかい
  • 上顎洞炎のリスクがある

それぞれ詳しくみていきましょう。

下顎と比較して骨密度や骨量が少ない

一つ目の上顎の骨の特徴としては骨の量の少なさがあげられます。一般的に下顎より上顎のほうが骨の量が少ないとされており、インプラント体と呼ばれる人工歯根を埋め込んだ際に安定しません。最悪の場合はインプラントが抜け落ちてしまうリスクがあります。また、上顎は骨の密度も少ないです。イプラント治療ではインプラント体を埋め込んだあと、骨との結合を待ちます。下顎であれば2〜3か月程度でインプラント体と下顎の骨が結合します。しかし、上顎の場合は骨の結合までに3〜9か月かかります。これはあくまでも目安ですが、上顎の方が治療に時間を有する可能性が高いです。

骨が柔らかい

顎の骨は皮質骨と海綿骨の2種類の骨で構成されています。皮質骨は高く、丈夫な骨ですが海綿骨はスポンジ状の柔らかい骨となっています。上顎の場合、この海綿骨の割合が多く占めているため、骨が柔らかく、骨の密度や量も小さいです。 インプラント体を埋め込む際にはある程度硬さのある骨に埋め込み、安定させる必要があります。しかし、柔らかい骨が多い上顎では硬さが足りず、安定しにくいです。

上顎洞炎のリスクがある

上顎の近くには上顎洞と呼ばれる空洞があります。上顎洞とは副鼻腔の一つで、鼻腔の周りにある空洞です。上顎洞は、吸い込んだ息が流れ込む場所で、4つある副鼻腔のうち最もスペースがあります。 この上顎洞での炎症を上顎洞炎といいます。上顎洞炎を発症すると鼻詰まりや頭痛、膿が出るなどの症状が現れます。この上顎洞炎の発症の原因の一つにインプラント治療があります。 インプラント治療をしたことで上顎洞炎を発症するリスクがあるため、上顎のインプラントは難しいといわれています。

上顎の骨密度や骨量が少なくなる要因

上顎はもともと骨密度が少ないですし、骨の量も少ないです。しかし、別に要因があって骨密度や骨の量が少なくなっている場合があります。そこで上顎の骨密度や骨量が少なくなる要因を4つ紹介します。

  • 歯周病により上顎の骨が溶けた
  • 歯のない状態を放置した
  • 入れ歯やブリッジで骨が萎縮した
  • 損傷や切除で上顎の骨の一部を失った

それぞれ解説します。

歯周病により上顎の骨が溶けた

歯周病は、上顎の骨に影響を与える病気の一つです。細菌感染により発症する病気で、進行すればするほど骨がなくなってしまいます。 初期の段階では歯茎に影響を与え、歯周ポケットに炎症を起こします。のちに歯を支えている骨にまで病気は進み、骨を溶かしてしまうのです。初期の段階で治療し、病気の進行を止められれば良いのですが、悪化すればするほど顎の骨を薄くします。

歯のない状態を放置した

歯のない状態を放置すると、歯がない部分の骨は痩せていきます。長期間の入院で足が痩せてしまった話はよく耳にしますが、これはお口の中でも同じです。 健康な歯があれば、毎日の咀嚼により歯茎や歯を支えている骨に刺激を与えられ、骨が痩せるのを防げます。 しかし、歯のない状態が続くとその部分の骨に刺激が伝わらず、時間が経過するとともに骨が痩せていきます。何らかの理由で歯を失った場合はすぐに歯科医院を受診すべきです。

入れ歯やブリッジで骨が萎縮した

入れ歯やブリッジの使用でも骨が痩せていきます。これは先ほど解説した歯がない状態とお口の中の状態が似ているためです。咀嚼するための歯としては存在していますが、ブリッジや入れ歯は歯茎に歯をのせているだけの状態です。咀嚼しても顎の骨まで刺激が伝わらず、次第に顎の骨が痩せていきます。顎の骨が痩せていく減少を骨吸収といい、ブリッジや入れ歯でも骨吸収は起こります。

損傷や切除で上顎の骨の一部を失った

何らかの病気が原因で骨を切除した場合も骨が少なくなっています。たとえば、口腔内や顎の近くに腫瘍ができた場合、摘出する際に骨の一部も一緒に切除するケースがあります。骨を物理的に切除しているため、骨の量が少なくなります。 また腫瘍のなかには骨を弱くしたり、骨密度を低下させるものもあります。お口の中のトラブル以外にも顎の骨に影響を与える病気がありますので覚えておきましょう。

上顎の前歯・奥歯のインプラントは難易度が特に高い

上顎のインプラントは治療が難しいといわれていますが、その中でも前歯と奥歯は飛び抜けて難しいといわれています。それぞれに理由がありますので、解説していきます。

前歯のインプラント

前歯のインプラントが難しいといわれる理由は2つあります。
一つ目は骨の量が他の部位よりも薄いためです。何度も述べているようにインプラント治療では歯を支える土台、つまり顎の骨が重要です。前歯の骨は薄いだけでなく、痩せやすい特徴ももっています。インプラント治療をしても安定しない可能性が高く、難易度を高くしている理由の一つです。
二つ目は切歯管と呼ばれる部位があるためです。これは鼻腔と高級を接続する役割を持つ部位で、神経や血管が通っているため傷つけないように治療しなければなりません。前歯の部分にしかない部位ですので、前歯のインプラント治療の難易度を高くしています。

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奥歯のインプラント

奥歯のインプラントが難しいといわれる理由、骨が薄い点です。上顎奥歯は前述した上顎洞が近いことで、骨が薄くなっています。 インプラント体を埋め込んだ際に上顎洞まで突き抜けてしまう恐れがあり、難易度が高いといわれています。

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上顎の骨が足りない場合のインプラントで考えられる手術法

上顎の骨が足りない場合のインプラント治療では3つの手術法が考えられます。

  • サイナスリフト
  • ソケットリフト
  • GBR法

これらはそれぞれにメリットもデメリットも存在します。3つの手術法のメリットとデメリットを解説しますので、参考にしてください。

サイナスリフト

サイナスリフトとは、骨の量が少ない場合に骨補填剤と呼ばれる骨を形成するための素材を使用して骨を形成する方法です。顎の骨が5mm以下など、多くの骨を形成しなければならない場合に選択されます。 治療の手順としては、歯茎に穴をあけ上顎洞が見えるまで開き、そこから骨補填剤を流し込みます。時間が経過するとこの骨補填剤はすでにある骨と一体化し、インプラント治療に必要なだけの骨を補填できます。

サイナスリフトのメリット

サイナスリフトのメリットは3つあります。

  • 骨が薄くインプラント治療が難しいと判断された場合でも選択できる
  • 広い範囲に骨を形成できる
  • 歯茎に穴を開けるため、広い視野を確保しながら治療でき安全性が高い

骨を形成するのは難しいのではと考える方もいるでしょう。サイナスリフトは治療効果が長続きしますし、骨と同じくらい丈夫になるため、インプラント治療の際にしっかりした土台として骨を形成できます。顎の骨の量が懸念となっている上顎のインプラント治療には最適な手術法といえるでしょう。

サイナスリフトのデメリット

サイナスリフトのデメリットは下記3つです。

  • 傷口が大きい
  • 回復に時間がかかり、かつ治療期間にも影響を与える
  • 術後にトラブルが発生する可能性がある

歯茎に穴をあけそこから骨補填剤を流し込むため、どうしても傷口は大きくなってしまいます。結果、回復に時間もかかりますし、骨が安定するまでにも時間がかかります。想定しているよりも治療に時間がかかる点はデメリットでしょう。 また治療後に手術した部分が腫れる可能性もあります。

ソケットリフト

ソケットリフトもサイナスリフトと同じで骨を形成する手術法です。骨の薄さが5mm以上など、サイナスリフトよりも形成する骨の量が多い方が実施します。部分的に骨の量を増やしたい場合に選択される手術法です。

ソケットリフトのメリット

ソケットリフトのメリットは以下の通りです。

  • 傷口が小さい
  • 傷の回復に時間がかからない

ソケットリフトはサイナスリフトに比べて難易度の低い手術です。そのため、傷口が小さく済みますし、治療後の傷口の回復も早くなります。費用も安くなるケースが多いでしょう。

ソケットリフトのデメリット

ソケットリフトのデメリットは以下の通りです。

  • 治療部分が見えにくい
  • 上顎洞との境目にある粘膜を破く恐れがある

ソケットリフトはサイナスリフトのように歯茎に大きな穴を開けておこなう治療ではありません。小さな穴を通しておこなわれる治療です。そのため、治療する部分は目視で確認しにくく、結果上顎洞との境目にある粘膜を破いてしまう恐れがあります。 また、形成する骨の量は少ないため、人によってはソケットリフトでの治療ではインプラント治療に必要な骨の量を形成できない可能性もあります。

GBR法

GBR法とは骨再生誘導法ともいい、骨を再生する方法です。骨の細胞には、骨を作る働きのある骨芽細胞と、骨を作る働きのない繊維芽細胞が存在します。骨が薄くなっている箇所はこの繊維芽細胞が増殖しているのが特徴です。 GBR法では、骨を増やしたい場所に自分の骨や骨補填剤を詰めて骨芽細胞の増殖を促します。約3か月〜4か月程度で、インプラント治療ができるまでに骨に厚みが生まれます

GBR法のメリット

GBR法のメリットは以下の通りです。

  • インプラント体を埋め込んだ後に骨を形成できる
  • インプラント体を埋め込んだ場合の安定性が高い

サイナスリフトやソケットリフトとの大きな違いはインプラント治療と同時に治療できる点です。通常、骨の形成をしてからインプラント治療を開始しますが、GBR法では骨の形成とインプラント治療を同時に進行できるケースがあります。 また、適切な位置の骨を形成できるので安定性も高くなります。

GBR法のデメリット

GBR法のデメリットは下記の通りです。

  • 自家骨を使用できない場合がある
  • 治療期間が長い

自家骨(自分の骨)を利用する場合は、骨を採取する際の手術とインプラント体を埋め込む際の手術の2回手術をする必要があります。結果治療期間が長くなる点はデメリットでしょう。 また、喫煙している方などは自家骨を利用できないなどの制限も存在します。

上顎のインプラントをする前に上顎洞炎について知っておこう

先ほども少し触れましたがインプラント治療を開始する前に上顎洞炎について知っておくべきでしょう。 これは上顎のインプラント治療する際ならではのリスクの一つです。症状や種類・治療法などを事前に把握しておきましょう。

上顎洞炎の症状

上顎洞炎では、種類によって症状が変わります。 鼻性の場合は、鼻詰まりや鼻水の変色、鼻の奥の違和感など鼻に関わる症状が現れやすいです。その他、目のだるさや頭痛など重度の鼻炎の際と同じような症状が現れます。 一方で歯性の場合は、歯の痛みや違和感、歯茎の腫れが症状として現れます。歯の痛みが頬の痛みへと変化していく方もいるでしょう。なかには鼻性での症状があらわれる方もいます。

上顎洞炎の種類

上顎洞炎が発症する原因は主に3つです。

  • インプラント
  • ウイルスもしくは細菌
  • 歯周病もしくは虫歯

原因がどこにあるのかで鼻性か歯性なのか変わります。それぞれの原因について解説します。

インプラントが原因の上顎洞炎

インプラント治療が原因で上顎洞炎が発症するケースでは、インプラントの手術時に傷をつけてしまい、そこから細菌に感染する場合が多いです。また、インプラント治療が他の歯に影響を与え、炎症が起き広がる場合などがあります。 インプラント治療の普及により増えている病気ですが、インプラント以外の治療でも上顎洞炎が発症する可能性はあります。インプラント治療に限らない点は覚えておきましょう。

ウイルスや細菌などが原因の鼻性上顎洞炎

ウイルスや細菌が原因となっている場合は、ウイルスなどが直接上顎洞に感染するわけではありません。風邪やインフルエンザになり、鼻に炎症が起きるとその炎症が副鼻腔まで広がり上顎洞炎となります。 花粉などのアレルギー反応でも同じで、鼻の炎症が長引いた際に上顎洞炎が発症するケースが多いです。

歯周病や虫歯が原因の歯性上顎洞炎

歯周病や虫歯に感染すると、細菌が歯の根本、また骨まで進行します。そのまま放置すると炎症はもっと広がり、結果として上顎洞炎となります。 この歯周病や虫歯が原因となって上顎洞炎が発症する割合は非常に高いです。歯周病や虫歯の副次的な病気として覚えておきましょう。

上顎洞炎の治療法

上顎洞炎になってしまった場合は、主に以下3つの治療方法があります。

  • 薬物治療
  • 歯科治療
  • 上顎洞根治治療

それぞれ解説します。

薬物による治療

薬物治療では炎症を抑えるための物質を服用し、炎症を抑えます。薬のみで治療するケースは少なく、ほとんどは歯科治療や手術と併用しておこなわれる手術になります。 上顎洞炎の症状が慢性化している場合は、長期間にわたって服用をしなければならないケースも存在し、用法用量を守ることを意識してする必要があります。

歯科医院での治療

歯科治療では歯の神経の治療や歯の神経の切除などをおこないます。これだけで改善しない場合は原因となっている歯を抜かなければならないケースもあります。 もし、上顎洞炎の原因がインプラント治療の場合はインプラントを抜かなければならない可能性も。上顎洞の原因を除去しなければ、炎症を抑えられないためです。

上顎洞根治手術による治療

上顎洞根治手術には2つの方法があります。 一つ目はコールドウェルーラック法です。上顎の一部の歯茎を切開し、その部分の骨に穴を開けます。そこから炎症を起こしている上顎洞粘膜を取り除く手術です。 二つ目はデンカー法で、鼻の底に近い部分まで骨を削る手術です。 どちらも手術での治療になる前に早めに治療を始めることをおすすめします。

まとめ

上顎のインプラントは骨の薄さや上顎洞炎のリスクなどの部分から難しいといわれています。上顎の中でも前歯や奥歯は特に難しいといわれており、治療できる歯科医院も限られているでしょう。 しかし、上顎のインプラント治療は難しいだけで絶対にできないわけではありません。信頼できる歯科医院を受診し、明密な治療計画を立てれば治療は可能です。 ただし、治療を進めるうえでの注意点もあります。事前に治療のリスクや治療後のトラブルについて把握し、安全に治療を進められるよう取り組みましょう。

この記事の監修者

本院院長 奥田 健太郎

略歴

2002年 日本歯科大学卒業
2002年 歯科医師免許取得
2003年 医療法人京和会梅田歯科 勤務
2005年 医療法人武内歯科医院 勤務
2009年 おくだデンタルクリニック開院 院長就任
2010年 九州大学大学院 博士号(歯学博士) 取得
2010年 九州大学大学院 歯学府 卒業
2011年 医療法人社団 健光会 設立
現在に至る

所属学会

アメリカインプラント学会
日本口腔インプラント学会
国際口腔インプラント学会
AAIDアメリカインプラント口腔学会
日本顎咬合学会